第3回合宿講習会ーーーー2018年11月3日

合宿講習会に参加――“武道としての空手”を学ぶ

113日に12名が参加して、飛鳥前師範直々のご指導のもと、第3回拳友会合宿講習会が行われました。表題が“武道空手を目指して”であり、異種格闘技を念頭にとの師範のお言葉通りに、実戦空手の奥義でした。しかも、それは武道という深遠な暗黙知の世界を、物理学的に形式知化して教えていただきました。

特に、3年前の第1回講習会で引用されました東大卒理学博士の吉福康郎氏の実測データを基にした衝撃力曲線は、今回の講習でようやく習得することができました。吉福氏自身が古武術や太極拳を学び理論を体現しており、私は早速お勧めの「格闘技奥義の科学」を読みました。

吉福氏は、次のように述べています。

「武術の技術習得の本質が、たんに筋力やスピードを高めるのではなく、“体の動きを質的に変える”点にあったことである。この質的な変化により、スポーツ的な動きよりもすばやく、かつ力強く技を掛けられることがわかった。もちろん、人間相手の技であるから、人体の構造を熟知し、その弱点を見事に突く力学的合理性も含んでいる」

当日の講習会内容を次の通り報告いたします。

(1)攻撃の手法と衝撃力の度合い

重い、鋭い、軽い技などの表現が、科学的に解明されていることを学んだ。吉福氏の著書では縦軸が衝撃力(kgw)、横軸が時間(ミリ秒)で衝撃力曲線が測定され、その積分値が力積となり、ダメージの大きさを表す。軽い技は時間の持続性が短く、重い技は時間の持続性が長い。蹴りと突きの衝撃力の違いも定量的に把握できた。

突き型(逆突き、横蹴り)は重い。突きの衝撃力の全力積のうち、拳そのものは20%程度であり、前腕、上腕、胴体の寄与率が大きい。巻き藁突きでの足腰のべクトル合わせの鍛錬は肝要である。

打ち型(鉄槌、まわし蹴り)の技は鋭い。振り回す先端の部分が突きより高速となるが、その先端付近だけの運動量となる。

(2)空手技と重心の移動

この講義で、通常何気なく行っている移動稽古の大切さを痛感した。のっそりとした移動では、衝撃力が半減する。逆突きと一歩踏み出す突きの違いをサンドバックで示していただいた。和道流独自の飛び込み突きも、この素早い移動と思われる。

空手の技のみが移動して衝撃力が増すそうであり、他の格闘技では減じる。

これは空手の移動は水平であり、移動の運動量を腕から拳を通して伝えやすいが、他の格闘技は、踏み出した足がブレーキとなり、衝撃力は逆に低下するとのことである。

私は、試合で一歩踏み出す追い蹴りで、相手を幾度か倒し、反則注意を受けた。これも無意識だったが、蹴る足に重心移動が加わり、威力が増したのであろう。

寸止めの空手では、得られない感触であり、巻き藁も漫然と逆突きを繰り返すのではなく、上記のような移動からの突きの鍛錬もすべきであった。

ここで、師範からは「絶え間なく産まれる工夫は、書き留めておかなければならない。そうしないとそれらは断片的となり、体系化されていかない」というお言葉があり心に刻んだ。

(3)面と線と点(衝撃力の課題)

武道空手の真髄の教えであり、異種格闘技との闘いにも通じるものである。

接触する面積の大小と衝撃との関りは、物体の固さは同じなら衝突面積と逆比例することがポイントである。そして、人体の急所50か所以上を示す図を配られた。

私は、前に出され、サンドバックを中高一本拳で突くように指示され、確かに指はめり込んでいき威力は体感できたが、作用反作用の法則で指がとてつもなく痛い。指に大きな反作用がかかるので、きちんと中高一本拳の鍛錬を行ってから、行なわなければならない。

また作用する面の固さも大事である。手刀の接触面が柔らかいが、正拳は人指し指と中指の2本全体で突き固い面である。師範は、2本の指の付け根の関節部分で巻き藁を打ち、接触面を小さくして威力が倍増させる鍛錬を行われているとのことである。

貫手を、鍛錬すればそれは実戦向けであり、2本貫き手は眼星(目)を狙えば、難敵でも倒せる。

(4)約束組手「後先の手」

和道空手の創始者である大塚博紀最高師範は、「基本組手」(待ちの形10本)のほかに、「後先の手」「先先の先手」「先手」の「基本組手」36本を残されているが、『それらは系統的に伝承された者が皆無であるため、今となっては大塚師が演武されたときのビデオなど断片的に残るのみである。今は名を明かせないが、親しくしている某氏の資料を参考にして』と前置きし、それらに師範ご自身が考案を加えて取りまとめ、「後先の手」の中から5つを選ばれ、研修課題になった。

後先の手とは、相手の攻撃を防御すると同時に攻撃に転ずるので防御即攻撃であり、中高一本拳で稲妻(右わき腹)などの急所を突く。

いよいよ、本講習で習得した“武道としての技”の実践にはいった。極めの部分を列挙する。

@    中高一本拳で稲妻を突き、間を置かず右足を踏み込み、右掌底を持って水月に当てを決め、更に下昆(下顎)を打って  のけぞらせる。

A    左裏拳をこめかみに打ち、相手の腕を胸前まで押し崩し、右肘打ちを稲妻に打ち込む。

B    相手の右拳を左手で内転させ、逆手に取って手首を殺して左脇腹に抱え、相手を崩して、右拳で下昆を裏突きする。

C    中高一本拳で月影(左脇腹)を突き、相手の突いた腕を外旋させて逆を取って崩し、月影に右肘打ちを打ち込む。

D    上段突きを右弧拳にて受け、内懐に跳びこみ、左右手刀で頸部、胸部を打つ。

学生時代に学んだ5本目までの組手とは異なり、すさまじい“武道としての極め技”である。

「崩して」「回して」「落とす」までが行使する一連の技法となる。その手段の中に、「当て」や「逆取り」など考えられるあらゆる技術を探る心構えが大切かと思う、と結ばれている。

   
   


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